「催眠療法」Ⅲ

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 よそで催眠療法を受けたが、どうしても治らないので、治して欲しいと相談を受けることがよくあります。そこでどのような催眠療法を受けたかと質問すれば、催眠状態にして暗示を与える昔ながらの単純な暗示療法であることが分かります。例えば、ある中年の女性が、毎日毎日が不安でたまらなく、病院で抗不安剤などをもらって飲んでいるが、いっこうに楽にならず、苦しいと訴えているとします。そこでよその催眠療法所に相談に行ったら、少し話を聞きトラウマ(心の傷)が影響しているから、それをほぐす必要があると説明されても、おもにやることは結局、催眠に導人していろいろな暗示を与え、さあ三つ数えて手を叩くと、あなたのずっと続いてきた不安感がスーッと消えてなくなりますよと言われる。そうなりたいと自分でも心から願ったけれど催眠から覚めた後、幾分心が軽くなったように感じはしたものの、不安感は何も消えなかったと訴えていました。何度か繰り返す必要があると言われて五、六回行ったが自分は催眠に入れないみたいでどうしても治らない、どうにかこの苦しみから解放して欲しいと悲痛な叫び声をあげておられました。
 この本を読み進まれるうちに徐々に催眠療法について何が正しいかを理解できるようになります。だから、間違った療法で無駄な時間をかけ、手遅れにならないように自分で十分に判断できるようになっていただきたいと願っています。
 心が苦しんでいる場合、その人の心の深層(無意識)の部分に原因となっている問題が抑圧されています。抑圧されているがゆえに、本人にはそれが分からないのです。意識では感じ取れません。だから、こういうことがあったので苦しむようになった、こういうことが起こるまではそんなことはなかった。原因は十分に分かっていると言われる方がよくいます。でも、分かっているのは自分を苦しませるようになったきっかけだけで、その背後にある過去の抑圧された原因など何にも分かってはいません。心の病を催眠療法で治す場合、その隠されている(抑圧されている)原因を明確にし、その原因となるしこりなどをほぐしながら取り除かなければ、その人の無意識はすんなりと必要な暗示を受け入れてはくれません。無意識の中に存在する抑圧されたものを意識上に引き上げ解放してやることを浄化といいます。意識上に引き上げるとは、自分の意識で自分を苦しめている真の原因を理解することであります。これがなければ浄化も解放もありえません。そしてさらに、無意識内の歪みを是正し、心の傷を癒すために、今までの性格的な特性や考え方を変える必要があります。そのために心理療法も必要になってきます。だが、カウンセリングなどを何年も受けている方は、すでに分かっていると思いますが、「カウンセラーの先生に言われていることはよく分かるし、白分でもそうでないといけないと思うが、どうしても自分を変えることができない、どうすればよいのかとジレンマや自己嫌悪を抱いてしまう」ということになります。いわゆる、正しく理解したこと、悟ったことを無意識の中に、どうしても受け入れることができず、頭だけ(理性だけ)で自分を変えることの難しさを嘆くことになります。
 でも催眠療法は単なる心理療法で終わることなく、自分で願うことを無理なくできるようにしてくれる強い力になってくれます。無意識の中の抑圧された原因が分かれば、催眠(トランス)状態において、それを解放し、あなたが望むことを無意識の領域に難なく受け入れさせ、あなたを変えていきます。症状も治っていきます。
 無意識について少し考えてみましょう。願望をかなえるような本を読んでいると、よく潜在意識という言葉が使われています。潜在意識=無意識と考えていただいて結構です。ここでは意識以外の世界(心の働き)を無意識と表現することにします。本来、意識と無意識はまったく別のもので、意識と無意識とは働きの役割が全く違っています。特に意識の方は無意識の働きに干渉できないようになっています。心の病の場合、過去の体験や環境による心の傷やストレスが無意識のなかに抑圧されていても意識では感知できません。だから厄介であり大変なのです。ところが、催眠(トランス)を活用することで、意識と無意識の交流が可能になります。だから、無意識の中に潜む原因を探り出せるのです。その探り出した原因を無意識の領域からどのように解放していくかが、次に問題となります。単に暗示だけでは無理があります。そのためには、心理療法を組み込んでいかなければトラウマの解消は無理なのです。これから催眠療法を受けることを考えておられる方は、単にトラウマ(心の傷)を癒すとか退行催眠による原因追究とかの言葉や説明にだまされることなく、本当に治療者が、きちんとした心理療法ができるか、深い人生経験を持っていて知識もあるかどうかということも判断基準に入れるべきでしょう。基本的に人生経験も浅く学問的知識のみで対処する治療者に果たしてどれだけ人の心の深いところに共鳴し理解することができるでしょうか。それがなければ人は導けないのです。
 また、心の病に至った原因を追求するとき、その人が催眠(トランス)状態で過去を振り返り、思い出す出来事や感情は客観的に見て事実である必要はないのです。もし誤解であったとしても、事実であったとしても、その人の心が過去の環境をどのように受け止めていたかが問題となるのです。
 例えば、親子関係において親が子供を手塩にかけて育てたのか、放任していたのかという事実はどうでもよいということです。問題なのは、その当時、子供が親とのかかわりをどのように感じ、受け止めていたかということが重要で、そこを明確にしなければいけません。子供の心についた傷が、誤解であったとしても年月が経ち誤解が解けたとしても、ほとんどの場合、その誤解による傷が癒されることはないのです。無意識の中に抑圧されその人を苦しめている原因が、自然に解消することはないのです。心の傷を引き上げて消し去るためには、双方が話し合い、理解し合うことだけでは無理なのです。もちろん軽いトラウマの場合は、それでも徐々に解消することもあるでしょう。しかし、心の病としての症状が出ている場合は、話し合いという理性の世界だけでは解消できません。心の奥にメスを入れて、長い問苦しめていた悪いものを切り取ってやらなければ解消しません。誤解でなく事実として傷つけられていた場合はもちろんのことです。そのために無意識の世界に働きかける手段として催眠(トランス)状態を活用する心理療法のことを催眠療法と私は呼んでいます。

◆目 次◆

まえがき

第1章 催眠療法について
催眠療法とは
催眠療法のあり方について
心を治すとは
トラウマ(心の傷)とは
治療者側に努力と向上
退行催眠療法とは
どのようにして症状が消えるか

第2章 症状の実際と治療理念
寂しくて一人でいられない
親の愛情を受けていない
親を殺したくなる
子供時代の環境(不安神経症)
共依存症
パニック障害
強迫性障害(強迫神経症)
症状が進行する背景
■強迫神経症の場合
■おならで悩んでいる場合
人と交流ができない
自分に自信が持てない
赤面
身体醜形(恐怖)障害
劣等感
対人緊張・あがり
対人恐怖・視線恐怖
多汗症
幼児虐待
■親からの虐待
■世代間伝達
性的不能
性的虐待
前世療法について

付 録 
自己催眠と他者催眠
自己催眠を学び活用することの価値
他者催眠術に対する誤解
他者催眠術の習得

あとがき