なぜ無意識に暗示を与えるだけでは心を癒すのに不十分なのか、そのひとつの理由として、心の病で苦しむ人の思考や性格的な特徴があげられます。ゆえに性格の改善が必要になります。ほとんどの人が、過去に苦しい体験をした心の世界に執拗に焦点を当て、そこに心を移し、苦しみを自ら作るという傾向が見られます。もっと別のことや、これからの未来のことに意識を向ければ楽なのが自分では分からなくなって、わざわざ苦しい方向ヘ自分を持っていっています。日常生活で些細なことにも引っかかって、それが尾を引き楽しいことを打ち消していくのです。ストレスの解消や、切り換えが下手な人です。このような性格的傾向も改善しなければいけません。しかし、こういった性格も環境によって助長されてきていることが多いのです。決して生まれつきで変えることができないものではないのです。
また、退行催眠という表現がありますが、これは催眠状態で過去の出来事にさかのぽり再体験することに使われています。この退行催眠により過去のトラウマ的な出来事を再体験させることの危険性を指摘する人もいますが、それはトラウマの内容により対処の仕方が違ってきます。単純に過去のトラウマチックな出来事を再度体験させれば、そのときついた心の傷をさらにえぐることになるとの指摘でしょうが、そのような悪い結果を生む再体験を退行催眠という名のもとで実施しているような幼稚なことでは催眠療法家としては失格ではないでしょうか。催眠によって過去を振り返るとき、再体験した過去の感情や苦悩を現実の世界に引きずってはいけません。あくまでも過去に戻るということは、交通事故や火災などで強烈な恐怖を味わい、それがトラウマとなって症状を作り出している場合(PTSD=心的外傷後ストレス障害)を除いて、そこに原因を見出し過去の体験から何かを学び取っていかなければいけません。そしてそのつど当時の心の傷を癒していかなければいけないのです。人の人生における過去の歴史は、人類の歴史と同様に学ぶためにのみ存在していると悟りそれらを現在と今後に活かしていかなければなりません。その当時の苦しみや後悔を引きずってはいけないのです。
催眠療法中に、心を病む人にとって振り返った過去には学ぶべき多くのことがあるのですが、これら全てが、こちらからの押し付けではなく、こうすれば本当に自分の心が楽になるという事実を白ら悟らせることが必要になるのです。
催眠療法のあり方について
催眠でダイエットができないかとよく話題になりますが、催眠を使って一般に行われている痩身法は、今まで大好物だった食べ物がまずくて嫌いになり食べられなくなるとか、多くの量を食べずに我慢できるようになるなど、食べる量の制限の痩身法や、痩せていく自己イメージを描かせたり、痩せることがいかに必要かを受け入れさせ、現在の太っている自分から、痩せて好きな服が着られて、人の目に触れることが嬉しくなるようなイメージを無意識(潜在意識)の中に作っていったり、イメージトレーニングとしてイメージの中で運動をさせたり、催眠状態に誘導して、痩せようとする意欲をどんどん高めていくような方法が一般的ですが、果たしてこれでよいのでしょうか?もちろん痩せられたら、それでよいと考える方はそれで結構ですが、なぜ自分はどんどん太ってきたのだろうかと考えたとき、単純に食べ物が美昧しくて食べに食べた結果だと言いきれるような方は、大いに一般的な減量法で頑張ってくださいと言ってよいでしょう。
しかし、今まで、このまま食べ過ぎたら肥満になってしまう、健康にも美容にも悪いと分かっているのに食べることを自己規制できなかったのは、心の奥にそうさせてきた原因があるとしたらどうでしょうか?原因を無視し、頑張ってダイエットすることで、心の深い所に存在する原因も一緒に解消されるものでしょうか?ここが重要なところなのです。人は自分でよくないと分かっていることを繰り返してしまうほど意志が弱い存在でしょうか? そうとは思いません。もしそうだとすれば、日常的な様々なことさえ処理できな
いことでしょう。タバコも意志が弱くてやめられないとよくぽやいておられますが、ダイエットできないのと同じで、その人の心の深層の部分に何かがあり、それが邪魔しているのです。これがある限り、ダイエット、禁煙、禁酒などの様々な自己規制ができないケースがたくさんあります。そして、この原因となっているものをそのままにして、何かを無理に成し遂げたとき、その原因が心の中でどのような働きをするか、注目しなければなりません。いったん敗北した無意識内の原因は、しばらくするとぶり返すか、何らかのかたちで別のー心の病〃の症状として襲ってくる可能性が非常に高いからです。
“心の病”にかかる方には、いくつかの生まれつきの性格的特徴があります。また、その特徴が、子供のときの環境で強められることもあります。ですから、誰もが心の病にかに かるわけではありませんが、現代人にとっては心の中に潜む。ある力(トラウマなどの原法因)によって、肉体が原因ではない症状に悩み苦しみだす可能性がかなりあると言ってよいと思います。心の病にかかる人、かからない人が、生まれつき決まっているわけではありませんが、そうなる傾向が強いか弱いかの差はあると言ってよいでしょう。人それぞれで、どのような環境から強く影響を受けてしまうかどうかが決まってきます。
心の中に潜む“ある力”によってやめようと思いながらも食べ続けてきた。しかし、その食べるという行為が何らかの努力によって遮られたとしましょう。そうなると“ある力”は仕方ないと諦めてしまうものでしょうか。そうであれば助かりますが、そんなに簡単に問題は解決しません。“ある力”は時間を置き、タイミングを見計らって、もっと強い力で攻めてくるか、別のかたちでその人に反撃してきます。別のかたちで反撃してきたときは、ほとんどの人には、その力は、肥満の原因と同じ原因から出ている。“ある力”だとは気づくことができないでしょう。こうなっていくことが怖いのです。人の心の中に抑圧された心の傷やうっ積された感情というものは、自然に解決するものではありません。その傷が深ければ深いほど問題は深刻です。生きている限り影響を受け苦しみ続けます。
人はどんどん肥満になっていくとき、これではいけないと悩んで、ストップをかけるものですが、なかなか止められないものです。なぜなら、そのときにその人を包む大きな悩みが背後にあるからなのです。それに気づいてはいるのだけども、その悩みと食べすぎとの関係がよく分かっていない、また背後の大きな問題が、解決しそうにないのでやけ食いになってしまっている。食べることで逃げている。そうしているうちに太っている自分を受け入れようと努力する人、食べたい気持ちを抑えられないので食べるけど食べた後に太らないために吐く癖がついてしまう人(過食症)、食べることを拒絶してしまう人(拒食症)、その他の神経症にかかる人などに大きく分かれてきます。どちらにしてもその背後に現在の大きな悩みがその人を包み込んでいることと、個人的にどのような悩みかは様々だけども、“あること”が現在その人を悩ませていて、その“あること”で解決できないほど悩まなければいけなくなっているのは、その人の幼児期から子供時代の環境に原因があるということに気づいて欲しいと思います。