「催眠療法」Ⅸ

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治療家側の努力と向上

 相談者の心と向かい合うために、そして人の心を理解するために、治療家はまず自分の心と深く向かい合い、心の世界を理解することが必要になります。自分の心を深く見つめることで人の心を理解できるようになります。そうしなければ、専門書で学んだ知識のみで人を導くことしかできず、非常に心細いものになります。治療家が、相談者と同じ体験を過去に持っている必要はありません。仮に持っていたとしても全く同じということはありえません。相談者と同じ体験を共有していなくても、過去の苦しみを真に理解でき、どのように導くべきかが分かることができます。相談者の心を自分の心で理解できたときに問題の解決策が見えてきます。本当に相手の心が見えて初めてその苦しみから解放してあげることができるものです。例えば、治療家が、相談者の過去の経験と全く反対の経験しかなくても(相談者は虐待を受けて育ったが、治療家は愛情深く育てられたとしても)心がどのようにその環境の中で影響を受け、それが相談者の現在にどのように作用しているかのメカニズムを、その対極である自分の心の中を深く見つめること(瞑想)で十分に理解し学ぶこともできるようになるものです。そのように自分を見つめ自分の心が分かり、心というものの奥深い本質が分かるようになるまでは、人を導くことなど決してできるものではないと思っています。
 誤解がないように付け加えますが、催眠療法というものは、人の無意識の中に治療家の観念(考え方や価値観)を植え付けるものでは決してありません。またそのようなことをしても心の病が治るわけではなく、単なる洗脳(マインドコントロール)になってしまいます。そうであってはいけません。相談者の人生を正しく支え導くためには、無意識の中に何かの暗示を入れることではなく、相談者自らこうなりたいという気持ちを手助けしてやることです。相談者のこうなりたいという正しい考えを育ててやることでもあります。
 心を見つめる前は、相談者は自分がどのように変わるべきかが分からず、唯、今の状態から抜け出したいだけの何も分からない心理状態だと理解しなければなりません。もちろん依存性も強くなっています。治療家としてもその依存性に対し、相談者との距離を置きながら対処しなければなりません。どうにかして欲しいという依存性が強まっている状態で、それを受け入れてしまえば改善など望めなくなってしまいます。特に催眠療法といえば、催眠にかけてもらい何か暗示を入れられたら別人のように変わっていけると思って、どうにかして欲しいと強く頼ってくる人もいます。依存される傾向が強くあります。しかし、依存関係を作り出してはいけないのです。
 また、催眠とは相手を簡単に変えてしまうような魔法ではありません。テレビの影響でしょうが、催眠の現象が一般に正しく理解されていないということがあります。人の心は、どうでもいいことは一時的に暗示を受け入れますが、あくまでも一時的です。人の無意識から働きかけている力や症状に対して、催眠暗示によって長期的に影響を与え続けることは簡単にはできないのです。テレビの娯楽番組でやっていることはうそではありませんが、あくまでも短期的に変化しているだけなのです。時間が経てばもとに戻るのです。
 しかしながら一時的であっても人の心はこういう現象も作れるのだということを知ってもらうために、私はテレビやその他の場所で催眠をかけ人を操ることもあります。
 考えてみて下さい。人がもし、簡単にしかも生涯にわたって別人になれるとすれば、それほど恐ろしいこともありません。人はそう簡単に他人の力によって変化することなどあってはいけないのです。だから心の世界を見つめ、自ら悟り、自分が与えられている暗示が、自分にとって必要だと真に分かったとき、その暗示をその人の無意識は生涯にわたって受け入れるようになるものです。またそこには意識も存在していますので、自らの日常における努力も怠りなくでき自分の成長にも役立つようになります。
 人は、人生において、運命という言葉に逃げ込んではいけません。運命だ、運命だと言っていては、歯を食いしばり努力して、人生を切り開いている人々の人生が分からなくなってしまいます。そういう努力している人々が、いかに人生に満足し努力に比例した生きがいを感じているかを、いかに有意義な満たされた人生を送っているかを私達は自ら体験して生きていく必要があると思っています。

◆目 次◆

まえがき

第1章 催眠療法について
催眠療法とは
催眠療法のあり方について
心を治すとは
トラウマ(心の傷)とは
治療者側に努力と向上
退行催眠療法とは
どのようにして症状が消えるか

第2章 症状の実際と治療理念
寂しくて一人でいられない
親の愛情を受けていない
親を殺したくなる
子供時代の環境(不安神経症)
共依存症
パニック障害
強迫性障害(強迫神経症)
症状が進行する背景
■強迫神経症の場合
■おならで悩んでいる場合
人と交流ができない
自分に自信が持てない
赤面
身体醜形(恐怖)障害
劣等感
対人緊張・あがり
対人恐怖・視線恐怖
多汗症
幼児虐待
■親からの虐待
■世代間伝達
性的不能
性的虐待
前世療法について

付 録 
自己催眠と他者催眠
自己催眠を学び活用することの価値
他者催眠術に対する誤解
他者催眠術の習得

あとがき